2021年の2月27日、ポケモンの新情報を伝える番組「Pokemon Presents」で私は衝撃を受けた。
子供の頃に何度も妄想しつづけたあの世界。幾度も妄想し続けたあの世界が映っていたのだ。
そんな全ポケモントレーナー待望と言っても過言ではない『Pokémon LEGENDS アルセウス』が2022年1月28日に発売され、当然ながら私は発売日に購入した。
今回はそんな一人のポケモントレーナーのレビューである。
「レジェンズ アルセウス」は夢の到達点
子供のころから見続けてきたポケモンの世界がそこにあった。
何度も何度も、ポケモンがこの世界に居るという想像をし、ポケモンを捕まえ、ポケモンをパートナーに冒険に出かける夢を見た。
今作はまさにそれをついに実現したのである。
ただフィールドがあるだけではない。
雨が降り、雪に凍え、夜に怯え、リアルなポケモン世界がそこにある。
シームレスでどこにでも行けるフィールド。厳密にはオープンワールドではなく箱庭に近いが、どこまで広く遠くまで、自由に山を海を空を駆けて冒険できる広大な世界でポケモン達の営みを観察し、触れ合うことができる。
初代から妄想し続け、いつしか大人になり、ポケモンGOのお披露目PVでまたその夢に引き戻された。ポケモンソード・シールドでその夢は子供のころの等身大の冒険として描かれ、ワイルドエリアという1つの可能性を見せてくれた。そして本作ではほぼ1つの完成系としてポケモンの世界を冒険するという体験を得ることができるようになったのだ。
戦闘を行うことなくポケモンに直接ボールを投げて捕まえてもいいし、ポケモンバトルをしかけて「にげる」コマンドを使わず直接逃げてもいい。複数のポケモンに囲まれていたら多対一になってしまう。当たり前だ。野生なのだから。
ノズパスはずっと北極を向いてほとんど動かない。ラッキーは主人公が傷ついていると癒してくれる。フワンテは子供を攫おうとする。ウソッキーは木の真似をしている。
筆者が好きな漫画に「ポケットモンスターSPECIAL(通称ポケスペ)」というものがあり、トレーナー戦において平気でトレーナーを攻撃しにいくだけでなく、ポケモン図鑑に載っているポケモンの特性を上手く使った戦闘シーンが多く子供ながらに関心していた。
そういった設定でしか存在しなかったポケモン図鑑の設定がそのままゲームとして体験できる。そりゃもう面白い。最高としか言えない。
ちなみにポケスペは3巻で赤・緑・青編が完結するので読んだことない人は是非とも読んでみてほしい。個人的に世界一面白いポケモン漫画なので。
似たような体験として「ポケモンスナップ」というゲームがある。あれも大変面白い名作であるが、自由にフィールドを動きまわってみたいと思ったプレイヤーは多いはずだ。
今作『レジェンズ アルセウス』はそれを叶えてくれる。自由にフィールドを駆け回り、エサを投げてそれを食べているところや、ポケモン達が寝ている姿を観察することだってできる。
私が今回とくに感動したのは、ポケモンを同時に6体出せるという点だ。
さすがにバトルで同時に出せないが(相手は出してくる)、フィールドだけでなく街の中でも6体すべて出せるのは本当に最高である。アニメで見た光景を再現できるのは本当に良い。夢がまた1つ叶った。
今回はポケモン1匹ごとに身長が反映されていて、身長の数字が違えば細かく見た目も変化する。ゆえに同じポケモンを6体並べてもみんな個性があってまた楽しい。
そしてポケモン達はとても恐ろしい。
草むらに入ろうとしてオーキド博士に「まてー! まつんじゃあ!」と止められた理由を26年ぶりに身をもって体験することができるのだ。
ゲーム開始直後にポケモンに襲われ重傷となっている人達の会話が聞こえてくるなど、従来のシリーズからは考えられないシビアな設定や展開が続く。これは単に、トレーナーとポケモンという関係が成り立つまでの物語という設定の掘り下げと同時に、ポケモンという生き物の存在を、私達に、より身近に、よりリアルに、体験させてくれる。
専用のバトルシステム採用は英断
今作で感動したことの1つにバトルがある。
トレーナー戦がめちゃくちゃ強い。とにかく強い。初代以来久しぶりにストーリーをクリアするために手持ちのレベルを上げるという行為を行った。まるで普通のRPGゲームのようである。
ポケモンは常々ストーリーや展開・BGMによる盛り上がりはとてもいいが、敵があまり強くなくて自分で手加減するなど強さを演出しなくてはならないのが不満だった。
今作では対人バトルがないおかげか、バトルシステムがいつもと大きく違う。単純なターン制ではなく、すばやさや使用した技によっては連続行動となり、また全体的によく攻撃を耐えるため、レベル差と弱点をついて一方的に倒すという展開が少ない。
また、オヤブンなど一部ボスバトルでは通常のポケモンよりすべてのステータスが上がった状態となっている。
このことは英断であり、ストーリーバトルにとてつもない緊張感を与えている。
バトルに勝てなくて真剣にどうやって攻略するかパーティ構成から考え直したのは久しぶりでとても楽しかった。
使いにくいUI
本作は正直なところUIの使いにくさなど粗が目立つ部分も多い。
ゲームフリークがこういったゲームを開発するのは初めてで、かつ、従来のポケモンから大きく操作方法や作法を変えているからこそ、従来からのプレイヤーには違和感として映るところが多くある。
例えば、モンスターボールを投げるのはZRトリガーであり、これはシームレスなフィールドで活動するポケモンに対して「アイテムを投げる」というアクションとして見ると違和感がない操作方法だ。しかし、バトル中においてもこのモンスターボールを使うボタンは変わらずZRトリガーを使う。これは一見するとゲームとしては一貫性があり自然な操作方法なのであるが、「ポケモンバトル」として見るとアイテムをZRトリガーで使うのは非常に違和感がある。モンスターボールを投げようとしてポケモンの技をうっかり使いそうになったというトレーナーは私以外にも多く居るはずだ。
他にも、アイテム欄の操作だと、大きな枠を移動するときはZR・ZLトリガー、小枠内ではR・Lトリガーを使用するという操作なのだが、はっきり言って誤爆しまくる。最後まで誤爆した。
完璧に使いこなせばボタンが分かれており最速に操作できるので合理的なのかもしれないが、そこは素直にカーソルでタブをチェンジさせるなど従来よりの操作でも良かったのではないかと思う。単純に使用するボタンが多すぎるのだ。
普段私はこういう細かい操作感の指摘などはしないのであるが『レジェンズ アルセウス』では最後まで気になってしまうところであったし、従来のポケモンとは大きく変えてきたところだったのであえて書くことにした。
しかしながら、ポケモンはシリーズごとに新しい要素をガンガン入れてはガンガン捨てていくゲームなので、今回も1つの挑戦だと思うし、正直マイナスポイントとはあまり捉えていない。
ちなみにUIで-30点だがポケモン要素で+10億点であるので、購入を迷う動機にUIはまったく理由に入らないということは強く言っておきたい。
進化しつづけることの難しさを乗り越えて
友人にアルセウスの素晴らしさを説いていたところ「毎作同じようなことを言っている」と言うようなことを言われた。
確かに私は「ポケモンソード・シールド」のレビューでも似たようなことを書いている。
だが、それこそが「ポケモン」シリーズの素晴らしいことなのだ。
ポケモンは進化しつづけている。
ゲームに限らず続編というものは必ず同じことの繰り返し、マンネリという壁にぶち当たる。
そしてポケモンというシリーズは25年以上もターン制RPGという非常にシンプルなシステムでやってきた長寿シリーズである。
しかし、少なくとも私の期待は常に上回ってきてくれた。
赤緑から金銀になったとき、初代の完全上位互換とも言うべき完成度だけでなく、ジョウトだけでなくカントーにまで行くことができた感動は今でも忘れられない。あまりの世界の広さにガイコクに行けるという噂も広まったほどだ。ルビーサファイア・DPではわざや能力値を初めとしたバトルシステムに大きな整備が入り、対戦ゲームとして完成系を見た。特にDPは筆者が一番やり込んだポケモンであり、公式で究極のポケモンと銘打たれたのは間違いなき事実であったと思う。そしてBWでは今まであっさりとしていたポケモンのストーリー部分にテコ入れがあり、壮大なストーリーやNといった今までとは毛色の違うキャラクターが導入されることとなる。ポケモンのドット絵もこのとき究極とも言える領域に突入している。そして続くXYではドット絵を捨て3Dという次世代を育む第一歩に突入する。サンムーンでは今までのお約束をぶち壊し、再構築。未だにポケモン世界の探索ではサンムーンが最高だと感じている。そしてソードシールドでジムリーダーなどの根本的な設定に踏み込み、ワイルドエリアという夢の片鱗を見せる。
そしてついに1つの夢を実現させたのが『レジェンズ アルセウス』だ。
めちゃくちゃオタクの早口で語ったが、本気で語ろうとするとただのポケモン談義になるので今回はこのへんにしておこう。
25年以上も我々を驚かせ、楽しませてくれたポケモンが今後どのような進化を遂げ、私たちにどんな景色を見せてくれるのか。考えるだけでも楽しみでたまらない。
次回作への要望
街。そう、街である。相棒となるポケモンを連れて街の中を思う存分探索したい。
ポケモンと言えば草や道路はもちろんだが、個性豊かなタウンもまた大きな魅力なのだ。
最近の作品ではやや簡略化されているが、ポケモンの世界は道中がなかなか険しい。特に初代など貴重な技枠をひでんマシンに使用し、いつ終わるかも分からない洞窟を抜け、回避不可能のトレーナーとの連戦でアイテムも精神もズタボロとなる。そんな思いでやっとのこと次の町へ行けたときの喜びはひとしおだ。
そしてポケモンセンターの安心感に包まれたのち、遊技場やデパートなど町ごとの特別な施設や民家までもしゃぶりつくすかのように探索してまわる。ポケモンは不意に意味深なオブジェクトや世界観を匂わすものを配置するので気が抜けない。
『レジェンズ アルセウス』のポケモン世界における自然界の探索は最高であったが、時代背景も相まって、街の探索しがいは皆無だった。
ポケモン世界の観光という面では「サンムーン」が突出して楽しく、まるで実際のハワイ島を訪れたかのような楽しさがあった。
今作のようなシステムと、現代的で巨大な街というのは食い合わせが悪いかもしれないが、少なくともポケモンを自由にボールから出して、共に街を観光するという楽しみ方はぜひともしてみたいところである。
総評
恐らく本作は、今作が初ポケモンか、従来からのポケモントレーナーかで大きく評価が変わると思われる。
正直なところ、ポケモン図鑑などは途中からマンネリ感は否めないし、アクションものとしてもオープンワールドものとしてもポケモンとしても中途半端な作品であると言わざるをえない。
しかし、それらは今作がポケモンであるからこそこのバランスなのだということがプレイしたものなら分かるし、同時にもっと吹っ切った作品も見てみたいという気持ちも分かる。少なくとも私は今作の『レジェンズ アルセウス』はポケモンとして大いに満足だ。