
今回はPS1のある意味不遇の名作アクションRPGである『ブレイヴフェンサー 武蔵伝』について語る。
PS1に名作数あれど、この『武蔵伝』は私のPS1名作ランキングの五指に入ることは間違いない。
本作は1998年7月16日にPS1でスクウェアから発売された。
2018年7月15日には20周年を迎え、スペシャルムービーも公開されている。
キャッチコピーは『でっかいシリーズ始めます』。
目次
ゲーム概要:コミカルとシリアスが同居した世界観をもつアクションRPG
本作はかの有名な二刀流の剣豪・武蔵が主人公のアクションRPGだ。
自由に移動できるマップは、ストーリーの進行に合わせて実行できるアクションが増え、それに応じて舞台も広がっていく。ストーリー自体は一本道であるものの、なかなか自由度の高いゲームである。
物語は武蔵が「ヤクイニック王国」のフィーレ姫に英雄召喚と言われる異世界召喚術で呼び出されるところから始まる。
王と王妃の不在中に攻めてきた「ル・コアール帝国」から守ってほしいと懇願され、伝説の剣レイガンドと、城に代々伝わる雷光丸を駆使して帝国と闘うことになるのである。
この武蔵は以前にも呼び出されたことがあり、今回が2度目の召喚なのだが、姫が未熟なため、召喚に失敗し「ムサシ」と名乗る子供が召喚されることとなった。
この辺りの設定は、最近流行のなろう系異世界モノに通じるものがある。
武蔵以外にも佐々木小次郎や、五右衛門・弁慶なども出てくるのでどちらかというと「ドリフターズ」や「Fate」だろうか。
しかし、もちろん本作はそれらとは全く似ても似つかないストーリーだ。
ストーリーは全体の比率でいうとシリアス色が強い物語運びとなっている。
帝国軍などは全体的にコミカルなのだが、ボス格のキャラクターやダンジョン、各種イベントは重々しいものが多い。
サブキャラクター達や、主人公の拠点となる村はほのぼのとしているのだが、その実、各々のキャラクターは複雑な背景をもっていることが多々ある。
そういった絶妙なバランスの世界観も本作の魅力の一つだ。
不名誉な知名度を持つ不遇の名作。『体験版のオマケ』として
本作は中途半端な知名度を誇る。
本作にはオマケとして、かのFF7の次回作で知名度も期待度も最高潮だったFF8の体験版が付属されたのである。
その結果、FF8の体験版のオマケというとてつもく不名誉な呼ばれ方をすることになった。
しかしながら、本作をプレイしたプレイヤーは評価を改めることになる。
骨太で画期的なシステムをもつ歯ごたえ十分な名作アクションRPGだったのだ。
そうして本作は最終的に65万本も売れることとなった。
多彩でやり応えのある難易度を誇るアクション
アクションRPGである本作は非常に多彩なアクションが可能となっている。
3Dフィールドを自由に駆け回り、多彩なアクションやスキルを駆使して攻略していくのだ。
特徴なバトルシステム「ゲット・イン」と「五輪の書」
本作の主人公であるムサシは二刀流なので、2種類の特殊な剣を使用する。
それが日本刀「雷光丸」と巨大な剣「レイガンド」だ。
物語の進行や、人々から教わることで特殊な剣技を覚えることができる。
その他、レイガンドは各ボスを倒していくことで「五輪の書」と言われる何度でも使える技を習得する。
五輪の書は攻撃能力が低く、謎解きや新たなフィールドへ移行するために使われるものが多い。
そして雷光丸は「ゲット・イン」という相手のエネルギーおよび技を吸収する特殊攻撃が行える。
このゲット・イン技は弾を飛ばす「ガンもどき」や「みねうち」のような戦闘スキルの他、特殊ステータスを回復したり、トゲ床を無視するホッピングなど多岐に渡る。
また、ムサシ含め多くのキャラクターはビンチョパワーと言われるエネルギーによりこの世に存在しており、ゲット・インはそれを吸収・回復することができる。
このゲット・インそのものが攻略のカギになったりと、本作においてビンチョパワーとゲット・インは非常に重要な役割を持つ。
複数持つことができないのでその場その場で持ち変えることになるのだが、これも本作の楽しさを手助けしている。
ほとんどの敵がゲット・イン技を持っているので、新たな敵や強敵と出会うことが煩わしくなく、むしろ楽しみになるのだ。
中にはバッドステータスに陥る罠のような技や、ステージの仕掛けを解くための技などもあり、新たな敵・スキルとの出会いをより刺激的なものへと昇華させている。
こういった新しいスキルが戦闘だけでなく、謎解きや新たなステージの開拓に使えるデザインは「ゼルダの伝説」が近いだろう。
スキルの他にも「伝説の武具」を手に入れると2段ジャンプなどアクションの幅もさらに増えていく。
前述した「五輪の書」と合わせ、作品全体を楽しくさせる優秀なゲームデザインである。
数々のトラウマを産みだした高難易度
このゲームは難易度がかなり高い。
全体で見ると普通のアクションRPGぐらいなのだが、要所要所でトラウマ級の難しさがある。
例えば、有名なところで言えば「スチームウッド」だろう。
一定時間内に吹き出す蒸気を飛び越えながら目的地を目指すのだが、判定が異常にシビアなのだ。
かなりギリギリでジャンプしなければならず、時間制限の焦りにより、さらに難易度は加速する。
しかもこのスチームウッドは一度ではなく、何度も暴走してプレイヤーに襲い掛かる。
一度目で苦戦したプレイヤーは二度目のスチームウッドで恐怖したことだろう。
その他、ラストダンジョンで詰んだというプレイヤーは多いのではないだろうか。
やたら難易度が高く長い上に、突入すると引き返せないため回復アイテムが足りなくなるという恐れがあるのだ。
こうなるとはっきり言って詰みだ。
なので、もし今からやる場合はできるだけ準備を整えて挑んでほしい。
絶望を与える恐怖のトラウマイベント
多くのプレイヤーに絶望を与え、武蔵伝の名を心に刻みこんだものの一つが「ヴァンビ」だろう。
ヴァンビとは変色した体、豚や蝙蝠のような醜い顔、巨大な手をもつ異形の吸血生物だ。
ゾンビのように扱われており、見た目が醜悪で生理的嫌悪感を与える。
途中、ムサシと仲のいい子供がこのヴァンビに噛まれるというイベントが発生する。
一定時間内に薬を入手しなければならないのだが、なんと失敗しても物語はゲームオーバーとならず進行してしまう。
すると、本当にその子供はヴァンビになってしまい、一部NPCは責任を感じて永久に居なくなってしまうのだ。
一応この場合でも後々治るのだが、それまで雑貨屋は使えなくなり、治った後も去ったNPCは戻ってこない。
しかもこのイベントは結構難易度が高く、本気でやってもわりと普通に失敗する。
失敗した多くのプレイヤーが「どうせゲームオーバーになるだろう」と油断していたことだろう。
武蔵伝はほのぼのとしたコメディ風な導入に反し、そうした恐怖をプレイヤーに与えるのが上手い作品なのだ。
住民が画面の向こうで生きて生活していた。時間と曜日の概念をもつリアルタイムな世界
本作には曜日と時間の概念が存在している。
村の住人は時間によって行動が変化し、あるキャラは朝になれば散歩しているし、昼になれば教会に行き、夜になれば酒場で酒を飲み、深夜になると家で寝ているのである。
そしてこれはリアルタイムで行われ、時間の経過と共にキャラクター達は自分たちの生活を謳歌している。
曜日やストーリー進行によっても住民の行動は変化するし、住民キャラクターだけでなく、敵や建物、ダンジョンですらも時間により行動が変化していく。
コンシューマの似たようなシステムと言えば「ゼルダの伝説 ムジュラの仮面」が近いだろう。
キャラクター達は皆活き活きしていて、一人一人にとても愛着がわくようにできていた。
その愛着ゆえに前述したトラウマとなるイベントもあるのであるが、それはこの良く出来た世界観あってこそだと言えるだろう。
時間の概念はキャラクターの行動だけでなく、所持アイテムやマップにも影響する。
例えば、安くて回復効率の良いパンは所持した状態で数日経つと腐ってしまう。
逆に効果の薄い納豆はずっと所持していると発酵して最強の回復アイテムとなる。
金は結構シビアなため、時間をかけて金を節約したり、村でタダでとれる井戸水で凌いだりといったやりくりもまた楽しい。
その他、特定の曜日にだけ現れるイベントやダンジョンなども存在し、謎解きに使われることもしばしばある。
また、主人公のムサシには「眠気」というステータスが存在し、これが貯まると著しく行動に制限がかかり、例えダンジョンの中であろうと寝てしまう。
ゆえに、宿屋や野宿をしながら眠気をちょくちょく解消しなければならない。
無茶な行動をとっていると、あと少しで間に合う時限イベントに眠気が重なってしまうなんていう場面もよく遭遇した。
こういった不便さが世界観を掘り下げるのに一役買っているのだ。
バッドルートも存在するイベントでも構わず寝てしまうので、今なら批判の嵐かもしれない。
こういったものが許されたのは当時ならではだろう。
PS1初期は退廃的な世界観や、プレイヤーに対してメッセージを訴えるような作品が非常に多かった。
例えば「プラネットライカ」であったり「moon」であったり……。
裏も表もある生きたキャラクター達と世界観
本作のキャラクターは生きている。
間違いなく、画面の向こうで彼らは生きているのだ。
牧歌的な世界の住民たちに潜む深みのある背景
ブギーポップでお馴染みの緒方剛志氏によるやわらかで素朴なタッチで描かれるキャラクター達は、とても心地がいい牧歌的な世界観を演出している。
例えば、冒険の拠点である「アミヤクイ村」は昔のファンタジー作品によくあるような田舎町だ。
そんな田舎の住人達は、前項で述べた時間の概念も相まって、とてもいきいきと生活している。
この時代のゲームには珍しく、ほとんどのキャラクターがボイス持ちなのも命を抜きこむことに一役買っている。
そんなのほほんとした世界観であるが、設定は妙に作り込まれており、なかなかシリアスな面も多い。
例えば、主人公のムサシの世話を色々と焼いてくれる雑貨屋のアイあばさんというキャラクターが居る。このアイおばさんは夫を過去に事故で失くしている。その一人息子であるテムはそのこともあって気丈に振るまうやんちゃ坊主だ。
また、酒場でいつも飲んだくれているパン屋のブレッドというキャラクターは、妻を亡くしたせいでダメ人間になったという過去を持つ。
武蔵伝にはこのような人死ににまつわる過去をもつキャラクターが多く登場する。
こういった設定の生々しさはキャラクターをより彩ってくれる。
また、多くの人物がムサシに対して元気に仲良く接してくれるので、その裏にこういった人物背景があるということがより際立つのである。
裏設定の多い悪役たち
本作の大きな敵役として「ル・コアール帝国」が用意されている。
彼らは「ヤクイニック王国」に攻めてきただけでなく、本作のヒロインであるフィーレ姫を誘拐するという分かりやすい悪役である。しかし実のところ、彼らはラスボスではないし、戦う回数もそこまで多くは無い。
ムサシはフィーレ姫を取り戻すために伝説の剣レイガンドの力を取り戻すため、各地に眠るクレスト=ガーディアンを倒しに行く。
本作のボスというと、どちらかというとこのクレスト=ガーディアン戦が目立つ。
そのうえ、ラスボスは過去にムサシに封印された魔人レイガンドであり、記憶を失っているムサシ本人に封印を解かせていたという衝撃の事実も判明する。
その他にも、ムサシにずっと協力してくれていた人物の意外すぎる過去が判明したりと、とことん帝国の影が薄くなっていくのだ。
そんな彼らも基本シリアスでありながらコメディ要素がふんだんにあり、憎めない名悪役となっている。
そして彼らは裏設定がとても多い。
例えば、ムサシとよく対峙する「リーダーズフォース」は全員が自分をリーダーと思い込んでいるからその名がついているのだが、彼らは全員帝国の英雄召喚によって呼び出された失敗作なのである。
エドは江戸川五右衛門、ベーンは武蔵坊弁慶、トポは女ネズミ小僧で、全員ムサシと同様に子供の姿で召喚された。
皇帝の実息であるムキムキ鉄仮面のボルドー少尉も、本来は病弱でひよわな体質であり、それを補うためにドーピングのために鉄仮面を付けている。
公式攻略本の解体真書では、ED後のストーリーとして彼が鉄仮面を外し帝国を再建することを決心する話が描かれている。
こういった設定は本編では語られていない。
そこに対しては賛否両論あるところであるが、設定が深く練り込まれた作品は「ニーア」などが有名で、作品が長く語り継がれ考察される要因でもある。
ここでは語りきれないが、こういった裏設定をもつキャラクターは他にも数多く登場する。
もちろん、そんな設定を知らなくても十分に楽しめるし、それを本編中で匂わせ考察で分かるようには工夫されている。
大貫健一さんの漫画版「ブレイヴフェンサー ムサシ伝」
本作武蔵伝は「ブレイヴフェンサー ムサシ伝」という名で漫画化されている。
作者はゴールデンカムイなどを手掛けるアニメーターの大貫健一氏である。
全3巻で構成されており、ムサシがゲーム版より少々ヤンチャになっており、全体のストーリー構成も大幅に変更されている。
しかしながら良くまとめられており、フィーレ姫はとても可愛く描かれているし、ウォッカ大佐やジャンと言った重要人物についても深く掘り下げていてとても面白い。
まとめ:細部まで作り込まれた丁寧なリアルタイム箱庭アクションRPG
正直まだ半分も語れていないのだが、今回はこの辺りで終わろう。
リアルタイムに時が流れる世界、できることの多さが圧倒的に多い未曾有のスキルやアクションの数々、ほぼ全てのキャラクターに用意された詳細なプロフィールと裏設定。
これほど製作者の愛が隅々まで詰まり、かつゲームも骨太なものは珍しい。
FF8の体験版付属ゲームとして鳴り物入りで登場したゲームであるが、その作り込みには多くのプレイヤーが驚嘆し、のめり込んだことだろう。
公式ホームページからアーカイヴ版を購入できるので、興味がある方はぜひともプレイしてみてほしい。