とても美しく、楽しい体験だった。
『Hollow Knight』を通じて私は儚くも美しいゴシックな世界を旅していくこととなったのだ。
『Hollow Knight(ホロウナイト)』はTeam Cherryにより開発され、PS4・Switch・PCで遊ぶことができる。
絵本のような昏い世界は私を魅了する
『ホロウナイト』は、忘れられた王国ハロウネストを放浪者として旅していくアクションゲームだ。
本作は、縦横無尽に繋がれた広大なマップを、自由に探索するメトロイドヴァニアと言われるジャンルであり、その多くは、元となったメトロイドや悪魔城のようにダークな世界観であることが多い。
そして本作もまた、ダークな世界観を持つ。
しかし、『ホロウナイト』を描くのは職人技のドット絵でもなく、最新の3Dグラフィックスでもない。絵本のような手書きで描かれた、昏くも美しい世界である。
忘れられてしまった王国で一体何があったのか。
ムシ達が栄華を極めたその先の災厄、滅びてもなお残る文明は放浪者たちに何を見せるのだろう。
私が『ホロウナイト』で見た真実は美しいものばかりではなかった。その多くは醜くもあるだろう。だが、その文明は確かに美しく見えた。
旅の拠点となる街ダートマウスを初めとして、旅の先々で多くのムシと出会った。彼らは決して多くを語ることは無い。しかし、彼らが見てきた真実、語り継がれてきた歴史、そして現在。それらは彼らの態度、あるいは立ち振る舞いから推し量ることができる。
彼らはただ語るだけではない。ハロウネストを旅していくうちに、彼らの時もまた流れる。その行く末はどれも感慨深いものだった。
世界は暗く昏く、希望が見える物語ではない。だが、どうしようもなく美しい世界は心を落ち着かせ、豪華な装丁のされた絵本を一枚一枚めくるかのような体験を与えてくれる。
Christopher Larkin氏の楽譜が奏でる音はハロウネストの悲哀を際立たせ、時にムシ達の威厳を私に教えてくれた。
ふと油断すると、またこの世界に訪れたくなってしまう。
ごまかしの効かないアクション性がゲームの深みを増す
『ホロウナイト』が、もし雰囲気だけのゲームであれば、私はここまで評価をしなかっただろう。
まず本作はアクション性が極めて高い。そしてそれは、ただ理不尽にしただけなようものでも無ければ、派手なエフェクトなどでごまかしたものでも一切無い。かけた時間分だけプレイヤーに腕前として還元される真っ当すぎるほどに正統派な2Dアクションゲームだ。
アクション性が高いと聞くと高難易度を想像するかもしれない。だがそれは間違いで、私が考えるアクション性が高いとは、プレイヤー自身の腕前が、ゲームに反映される度合いが高いゲームのことを指すものだと考えている。
たしかに本作は難易度が低いとは言えないし、ワンボタンで解決するような救済処置や、アイテム等によるごり押しもない。だが、ほぼすべての敵は理不尽な弾幕などを持たず、攻撃パターンが構築されており、いかなる相手であっても攻略パターンを見いだし最終的にはノーダメージクリアを目指せるようになっている。
そして同時に、硬派すぎるというほどでもない。はっきり言って、硬派なゲームとは窮屈なゲームとも言える。だが本作においてそれはない。
主人公はゲームが進むと、いくつかの魔法と二段ジャンプや空中ダッシュといった軽快なアクションが行えるようになる。さらにはチャームと言って、特殊な能力を付与し、自由に組み合わせることができるアイテムも登場する。
探索は自由度が高いので、倒せなかったボスは後回しにして強化や新たなチャームを取得してもいいし、何度も再挑戦してチャームの組み合わせを試行錯誤する時間もまた楽しい。
さらに言うと『ホロウナイト』に即死トラップは存在せず、最初から使える回復の魔法は探索時であれば実質無制限に使えるので、そうそう詰むことはない。
こういうストレスのないゲーム性もまた『ホロウナイト』の魅力なのだ。ただ簡単であればいいとか難しければいいとか、そういうことはアクションにおける楽しさの本質ではない。『ホロウナイト』は本質の楽しさが詰まっている。
Twitterに筆者が大好きなDLCボスの動画を載せているので、戦闘の雰囲気を知る手掛かりにしてほしい。断っておくと、このボスはDLCボスなので難易度は全体から見てもかなり高い方となる。だが見て分かるように理不尽ではないし、BGMも演出もキャラクターもすべてが最高なので、あまりにも楽しすぎてノーダメージクリアを目指すほどに楽しんでしまった。
ちなみにDLC類はすべて無料なので安心してほしい。DLCは基本的にどのタイミングでも始められ、どれも魅力的なキャラクターやチャームが登場するので楽しめる。また、本編の一部高難易度コンテンツもDLCで手に入るアイテムのおかげで難易度を緩和できる。
また、本作は楽しいアクションゲームの条件をことごとく満たしている。それは軽快な操作性・攻撃がヒットしたときの小気味良いSEやエフェクト・ちょうどよいヒットストップ、つまり操作すること自体がとても気持ちがいいのである。
フィールドは攻撃することで草木が刈られ、看板や鉄柵は吹き飛び、像は破壊され、謎の泡やキノコは軽快な破裂音と共に消し飛ぶ。古い施設では歩けば埃が舞う。つまり、行動すると行動したことに対して何かしらのアクションが返ってくるのだ。
こういった何気ない作りこみはフィールドの隅々までおよび、これらが攻撃を振り回してみたり、ダッシュで駆け抜けてみたりといった何かしらのアクションを常にしてみたくなる欲を刺激し、操作することへの快感へと繋がっていく。
ほかにも、地図を見る動作なども凝っている。簡易的に周辺を見る場合、主人公がさっと地図を開く動作をしてくれる。さらにそのまま移動すると、地図を見ながら歩く。とうぜん落下したり、攻撃中は地図を開けない。とにかく細かい。
このようなアクションゲームとしての本質、そして前述した世界観の作りこみとが合わさることで『ホロウナイト』というゲームは深みを増し、ただただその世界に居るだけで楽しいと思わせてくれる。
念のため難易度について補足すると、無料DLCの最難関エンドコンテンツでは、全ボスとの連戦や完全ノーダメージクリアなど、理不尽とも言うべき難易度が用意されている。
ただそれを逆手に取り、すべてのボスといろんな条件で戦えるモードもあるので、本編の練習に利用することも可能であるし、単純に戦闘がとても面白いので、ボスとまた戦いたいという欲も満たせる。
さすがにこれらは、ホロウナイトを極めに極めてまだまだやり足りない人向けのものなので気にしなくていい。ただし、プラチナトロフィーを取りたい人にとってはボス10連戦程度まではする必要があり、とてつもない壁となるので注意が必要だ。
好きすぎるホロウナイトというゲーム
『ホロウナイト』はオーソドックスなゲームと言える。だがそれは、古臭いだとかよくあるゲームということ訳ではない。細部まで作り込まれた挙動や、システムによる快適なアクションは、確実に現代のゲームであり、モダンクラシックと言えよう。
好きすぎてFangamerさんでリアルグッズまで購入したのだが、このハードカバーで豪華な装丁がされた「放浪者の日誌」はとてもよかった。目新しい情報がある訳ではないが、本編のムシや世界が手書きで描かれ、ゲーム内アイテムである放浪者の日誌の設定通り、この本もまたムシが記したものとしてそのムシ視点のメモ書きがされている。
どこまでも濃厚な世界観に浸ることができるのである。
私は本来暗いゲームより明るいゲームの方を好むし、物語も仄めかすよりしっかりと開示してくれる方が好きだ。『ホロウナイト』は海外ゲームによくあるように、ストーリーを積極的に開示しないし、メトロイドヴァニアのお約束のように暗い雰囲気がある。それでも私はこの世界に惚れ込み魅了された。ストーリーもすべてが語られる訳ではないが、真相を知るに十分な情報は開示され、何があったか、何をするべきかは知ることができる。
ちなみにホロウナイトは「ムシ」達の話なので、正直ちょっと気持ちが悪い描写やステージが存在する。私はリアルの虫は大嫌いで、触ることも近寄ることもできない。蝶も蛾も同じであるし、なんならすべての虫は絶滅してもいいぐらいに思っている。それでもプレイできたので、虫嫌いでもなんとかなると思っている。
ホロウナイトのおかげですっかりゴシックな世界観が大好きになってしまった。
ついに好きすぎて、ゴシックなカフェや雑貨屋をGoogleで検索する日々である。
誰かとゴシックカフェに行くオフ会とかしたい。
総評
アクションゲーム好きならぜひとも楽しんでほしい。世界観に惚れ込んだ人にもぜひとも手に取ってもらいたい。これぞメトロイドヴァニアの現代における名作と呼ぶに相応しい内容だ。
ボリュームはこのジャンルとしてはすさまじいが、ノーマルクリアなら10~15時間、真EDなら20時間もあればクリアできるだろう。EDも分岐とはいえ、クリアデータからそのまま真EDを目指せるので周回の必要はない。
私は無駄にDLCボスのノーダメを目指したりしてしまったので時間がかかっているが、そもそも実績に5時間以内でクリアがあったりするので、そこまで時間がかかるゲームではない。