『パラサイト・イヴ2』感想・レビュー。トラウマやシャワーだけでは無い。練られた設定の昇華や優れたグラフィックが産み出す至極のSFホラー【評価】

パラサイト・イヴ2

筆者がホラーゲームと聞いて真っ先に思い浮かぶゲームがある。それが今回ご紹介する「パラサイト・イヴ2」だ。

パラサイト・イヴ2は1999年12月16日にスクウェアからプレイステーションで発売された。ジャンルは、シネマティックアドベンチャー・RPG。1と2合わせて累計100万本を突破した名作として知られている。

ホラーと言えばバイオハザードやサイレントヒルなどが有名であるが、筆者にとって本作は唯一無二の印象深いホラー作品である。

公式HP

ネオ・ミトコンドリアを巡る本格的なSFホラー

舞台は前作「マンハッタン島封鎖事件」から3年後、主人公である「アヤ(AYA)」がN.M.C.(ネオ・ミトコンドリア・クリーチャー)討伐機関「M.I.S.T.」に所属し、新たな依頼を受けるところから始まる。

本作は「2」というタイトルの通り、2作目であり前作「パラサイト・イヴ」の続編にあたる作品だ。

と言っても、本作から始めても問題はない。

無論、前作からストーリーは繋がっているが、それほど複雑ではないし、毛色が前作とはかなり異なっているのだ。

前作のストーリーをざっくり説明すると、すべての生き物に存在する「ミトコンドリア」という細胞(実在する)が、意思を持って人類に反逆するという物語だ。なんやかんやあり、主人公アヤはその親玉を討伐することになる。

原作が同名の小説であり、著者の瀬名秀明氏は薬学博士でもある。映画化もされ一般的な知名度も高い。

そう、前作はサイエンスなSFなのだ。小説が発刊された95年当時、このような細胞や菌と言った微生物が反乱を起こすというような設定が流行っていた。似たような作品では「らせん」などがそうだろう。

対してパラサイト・イヴ2では、人間の遺伝子を組み替えて人工的に作られた化け物「A.N.M.C.」や、特別なミトコンドリアを持つアヤのクローン「イヴ」を中心としたSFホラーとなる。

そう、本作はホラーゲームというジャンルを書き換えた名作、バイオハザードで人気となった生物兵器の研究を題材としたものになったのだ。

バイオライクなゲームは商業から個人製作まで数多く発表されたが、本作はオリジナル設定を生かし昇華させたうえで、完成度がとても高い。

それが成功してか、売り上げこそ1作目の半分以下となったが、より重厚な世界観が構築され、スクウェアの持つ技術とマッチした素晴らしい作品となった。

バイオハザード的でありRPGでもある独特な戦闘システム

パラサイト・イヴ2を語るうえで外せないのが特徴的なバトルシステムだ。

自由に動けるATB(アクティブ・タイム・バトル)であった前作と打って変わって、基本的なバトルシステムはバイオハザードと似た銃撃アクションに変更となった。

つまり、キャラクターの向いている方向に対して前進・後退・右折・左折するラジコン操作に加え、□ボタンで銃を構えてR1ボタンで射撃するというものだ。

これにより移動がやや不便かつ、リアルタイムなアクションでホラーを演出している。さらに、構えと射撃ボタンがバイオハザードと逆となり、R1をトリガーに見立てることで直感的な操作となるようにしてある。

それに加え、本作ではHPのほかにMPが存在し、主人公のアヤが超能力である「PE(パラサイト・エナジー)」を使用することができる。

これは魔法のようなもので、広範囲を燃やしたり、ステータスの補助、体力の回復などを行うことができる。これもアヤに特別なミトコンドリアが宿っているという前作の設定を引き継いだものに由来している。

そして特徴的なのがエンカウントシステムだ。

本作では細かくエリアが切り替わるのだが、エリア内に敵が居ると、そのエリアはリアルタイムで戦闘エリアに切り替わる。

エリア内の敵を全滅させるか、エリア外に出ることで戦闘が終了し、倒した敵に応じてBP(通貨)や経験値を得ることが可能となる。

さらに敵にはHPゲージが存在し、銃撃やPEによってダメージを与えると数値でダメージが表示される。

上記のように、本作はバイオハザードのようなアクションでありながら、RPG的なシステムを持つ特殊な戦闘システムとなっている。

これが大層面白く、銃の残弾数管理といったホラーゲーム特有の、行動を制限することで精神的なストレスと恐怖を演出させる技法をプレイヤーに課すと同時に、雑魚敵を範囲攻撃で薙ぎ払ったり、大ボスに対して派手なPEを放つといった気持ちよさも味わうことができるのだ。

空気感を伝えるグラフィック。ドライフィールドの雰囲気は秀逸

パラサイト・イヴ2のグラフィックはとてもリアルで写実的だ。とてもプレイステーション1で描かれたものとは思えない。さすがのスクウェアと言うべきだろう。

特に筆者の思い出として印象深いのが「ドライフィールド」だ。

物語の中盤から立ち寄ることになる場所なのだが、地名が指す通り、乾燥しきっ砂漠地帯となっている。ゲーム内の描写としては荒野に近い。

舞台としては集落でガソリンスタンドやモーテル、そのほかいくつかの建物などが存在するのだが、化け物に襲われ無人となった廃墟という雰囲気がよく出ていて気味の悪さが素晴らしい。

それは例えば、むやみやたらにおどろおどろした化け物の巣窟として描くのではなく、人の気配を感じさせない錆びれたコンクリートの塊だけが残る寂しさ、それでいて砂漠地帯のスカッとした天候に晒された気だるくなるような気候を感じさせてくる。

暑く、重い足取りのなか、誰もいない廃墟となった集落を彷徨う。

そんな中、誰も居らず機能していないとはいえ、日差しから逃れるようにコンビニに入るとコントローラーを握るこちらの気持ちも休まってくる。

律儀にお金を払いコーラを飲む。

特別ムービーがあるでもない、ちょっとした小ネタのようなそれはとても蠱惑的だ。

一度しか買えないコーラにもどかしさを覚えたし、心細い探索のなかで出会ったおっちゃんはとても心強い存在だった。

このような特別なゲーム体験を得られて良かったと心底思っている。

似たようなグラフィックの作りとしては同社のFF8がある。FF8もまたプレイステーション1とは思えない美しく広大なグラフィックであった。

バイオリメイクなどを見るに、恐らくは画質が粗いことでプレイヤーの想像が駆り立てさせられ、実物よりリアルとなるのだろう。

驚くべきは、その効果を意図したかは分からないが、実に効果的に利用している点である。

NMCは怖い。圧倒的なトラウマを誇る馬型クリーチャー

本作はホラーゲームだ。

よってとても怖い。前述したとおり、ステージの雰囲気も人を怖がらせる心理を上手くついてきており恐ろしいのだが、演出やクリーチャーが本当に怖い。

本作には基本的な敵として、ミトコンドリアによって変質したN.M.C.(ネオ・ミトコンドリア・クリーチャー)が居る。ちなみにネオとは、意思を持ったミトコンドリアのことを指す。

さらに、中でも本作から登場するA.N.M.C.(アーティフィシャル・ネオ・ミトコンドリア・クリーチャー、読みはアンミック)が泣きそうになるほど怖い。

人工的に作られた化け物で、すべて人間がベースとなっており、騙されて改造されたものがシャンバラという施設で飼育されている。

もうこの設定がすでに怖い。生理的な気持ち悪さがある。

前述したドライフィールドでは、一部のA.N.M.C.と出会うことになる。

廃墟となった集落を彷徨ううち、泣いている少女に出会う。話しかけると振り向き際、彼女の顔は裂け、異様な音を立てながら全身の骨格が変形していく。奇妙な人のような顔を持つ馬型のA.N.M.C.だ。

人に擬態するA.N.M.C.はその変形のおぞましさだけでなく、人の姿を半端に残し、それでいて人としては不自然でありえない異様な見た目を持つ。

人間の生理的な恐怖を刺激し、これまでどこか寂しいだけだった廃墟は、とたんに何も信用できない地獄と化した。

この演出はとても印象的で、初代バイオハザードの振り向きゾンビと並んで有名である。実際「パラサイト・イヴ2」で画像検索すると、この変身途中のシーンが表示されるはずだ。

恐ろしいのはドライフィールドだけではない。

モーテルで真夜中に遭遇した超巨大A.N.M.C.には驚いたし、ネヴァダ地下実験場で遭遇する巨大馬型大A.N.M.C.には絶望を覚えた。シャンバラのA.N.M.C.はどれも失敗した人間のような形をしていくとても気持ちが悪く、嫌悪感がさらなる恐怖を呼び起こす。

バイオライクなゲームでは、ゲーム後半にこういった化け物たちの研究レポートを覗き見ることができるのが定番となっている。

このような形式では、Sanetomo Works制作のフリーゲーム「Twelve Doors」が秀逸だと感じたが、本作もまた良くできている。

例えば、クリーチャーの説明だけでなく、このシャンバラという施設ではBP(バウンティ・ポイント)と言われる主人公が所属する組織「M.I.S.T.」で使われる通貨が使用できる。

これがご都合主義ではなく、施設内の資料により、シャンバラが政府そしてM.I.S.T.上層部と繋がっていることが判明し、それゆえに共通のシステムが利用できるということが分かるようになっているのだ。

ただバイオライクにするだけでなく、オリジナルの設定を昇華し、物語全体に活かした巧妙なストーリーだと言えるだろう。

シャワーシーンで大反響を呼んだムービーの美しさ

前項で、グラフィックの素晴らしさを説いたが、本作品はプリレンダムービーも美しい。

特に主人公アヤのシャワームービーは当時話題を呼んだ。

FF7や8でも有名なスクウェアの誇る美しいプリレンダ技術で描かれたムービーはどれも美しく、プレイステーション1の限界に挑戦していたことは間違いないだろう。

中でもシャワーシーンはわりと唐突に挟まれたため、驚いたプレイヤーは多かったのではないだろうか。そのあとすぐに超巨大ボスとの戦闘というのも、プレイヤーの気持ちが二転三転してなかなか良い演出である。

主人公のアヤは27歳という設定であるが、アヤの中で生きているミトコンドリアが母体を若く保っているため全体的にとても若く見える。

中でもシャワーシーンでは特に若く描かれているように見えるのである。

このシャワーシーンは当時のゲーム雑誌でも取り上げられたほど有名で、パラサイト・イヴ2と言えばシャワーが真っ先に出てくる人も多いだろう。

最も、この優れた技術のおかげで、少女の怪物化というトラウマシーンが強烈なものとしてプレイヤーの脳裏に刻まれたのであるが……。

まとめ:非常に完成度の高いバイオライクな名作

前作から方向転換し、バイオライクの作品へと転化させた本作品。

ただ流行りに乗っただけでなく、オリジナル性もあり、物語の整合性も高い。

ドライフィールドを始めとしたその場所の空気を感じさせるようなグラフィックはさすがのスクウェアと言わざるをえない素晴らしい出来だった。

2020年現在、時代には合わないかもしれないが、またこのようなホラーゲームをプレイしたいものである。

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