約200時間プレイし『サイバーパンク2077』をクリアした。
物議を醸した本作であるがなかなか楽しめた。そして私は私なりにこのゲームはこういうゲームなのだなと解釈したことがあり、それを本レビューで伝えていくことにする。
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我々はナイトシティを観測する
先に断っておくと本作はナイトシティを自由に生きるという趣旨のゲームではない。
本作をプレイする前、とあるメディアで「物語の舞台であるナイトシティでどう生きるか」というような一文を見かけたのであるが、そのようなゲームではなかったように思う。
では、どういうゲームなのか?
まず本作はレトロヒューチャーなディストピア「ナイトシティ」を舞台としたオープンワールドだ。
そして本作には元ネタがある。「サイバーパンク2.0.2.0.」という1988年に発売され、今もなお愛され続けるTRPGだ。
「サイバーパンク2.0.2.0.」は設定集だけで辞典ほどもあるのが常なTRPGのなかにおいても圧倒的な情報量を誇ることで有名で、たとえば本作の舞台である「ナイトシティ」と同名の本が存在しており、建物や住人の設定が1つ1つ作り込まれているほどだ。
そして『サイバーパンク2077』は「サイバーパンク2.0.2.0.」の作り出した世界を忠実に再現している。
我々はその世界に生きる1人の若者として、そこに生きる者達の人生に触れ、時代の節目に立ち会い、秩序と混沌が入り混じるその街を、その世界を、観測していくのだ。
退廃的な美しさ。暴力的な魅力。ナイトシティに酔いしれる
『サイバーパンク2077』の根底にある「サイバーパンク」というジャンルは同名タイトルの小説が元となって確立された。
1980年代に創作されたSFの一思想であり、従来のSFと違い、当時の情勢をそのまま拡張したような現実性のある未来を描くようになったことが特徴である。
そのため作中人物の多くは身近な現実の拡張として、人体を改造(拡張)し、脳を直接ネットワークに繋いだり、生体機能を強化し大幅に寿命や身体機能を伸ばすといった行為が普遍化している。
また、心理面における現実性として構造や体制に対する反発、いわゆるパンクが物語の主軸としておかれることが多い。
そして1980年当時のアメリカでは日本は急激な成長を遂げる謎の島国として不気味に映っていた。これが日本脅威論となり、やがてアメリカ経済を脅かすのではないかと囁かれていたのである。
『サイバーパンク2077』の世界でもそれは大きく反映されている。ところどころに日本語や日本名が登場するばかりか、ナイトシティにおいて最も力を持つのも日本企業「アラサカ」である。
経済破綻に伴い、市民は自衛のために自販機で使い捨てハンドガンを購入しなければならないほどまで治安が悪化した未来。罰則ばかりが強化され、弱体化していく各国政府と権力を大きなものとしていく多国籍企業が支配し、全身をサイバネ化(機械化)させたならず者が跋扈するナイトシティ。
本作はそういった世界観を余すことなくふんだんに舞台として用意している。
多彩なスキルツリーと単調なパーク
『サイバーパンク2077』ではスキルツリーによって自分の好きな戦闘スタイルを成長させていくことができる。
簡単に分けると近接・銃器・ハッキング(クイックハック)となり、そこからさらに武具の作成・暗殺特化・フィジカル特化などを組み合わせることが可能だ。
スキルツリーで取得可能なパーク自体は広く多彩であるが、いかんせん種類が単調である。
たとえば戦闘系パークは「クリティカル率+〇%上昇」や「ダメージ+〇%上昇」といったものが大半を占め、全体的にステータスやクラフトの上限解放系が多く見られる。
なので新しいパークを取ったから試してみよう! といったことはあまり起きない。
無論、新アクション解放系もあるし、ハッキング系なら上限が増えれば一度にやれる手数が増えることになるので楽しさは大きく増す。しかしながら正直、新アクションというには地味なものが多いため、強くなったなぐらいのリアクションしかとれないことが多いというのが正直なところだろう。
いささか地味で大雑把な戦闘
先述したとおり、本作の戦闘は大きく分けて近接・銃器・ハッキング(クイックハック)の3種類に分かれる。
このうちハッキング以外は別にスキルツリーをたいして成長させなくてもごり押しできる。
なぜなら低レベル帯で取得できるパークに強力なダメージ加算系があることと、敵とのレベルが合い適正な装備をしていれば大きな苦戦を強いられることは少ないからだ。
逆に適正レベルを大きく超えた敵や、一部の強敵はどれだけスキルを成長させていても被弾すればあっさりやられるし、こちらのダメージも通らない。
また、どのスキルを成長させても最終的には色々とインフレするので好きなプレイを目指して成長させるのが良いだろう。
正直ハッキングも成長させる理由は威力などではなく、強力なハッキングスキルをクラフトするためのスキルが必要だからであって、それさえ他の手段で手に入ればごり押し可能だ。
戦い方には様々な選択肢がある。
たとえば銃器であれば跳弾を得意とするパワー、チャージ可能で壁を貫通できるテック、敵をロックオンして弾が自動追尾するスマートがある。
たとえば上記の画像ではハンドガンのスマート武器で敵をロックオンし、弾が急激なカーブを描いているのが分かる。
だが見て分かる通り、地味だ。
アサルトライフルならもう少しさまになるし、スナイパーライフルで弧を描いた弾がヘッドショットを決めたときなど最高に気持ちがいい。
が、もう少し派手でも良かったのではないかとも思う。
腕に砲やワイヤーを仕込んだり、敷地内すべてのカメラ・ドローンを掌握、ネット毒を散布したり目を盗んで暗殺術……などといったサイバーパンクな浪漫溢れることが可能な本作。
楽しいがゆえに淡々としすぎているのは気になる。チャージ武器なら少しレーザー気味なエフェクトを、跳弾なら乱反射した弾が相手をハチの巣に……ぐらいの演出があっても許されたのではないだろうか。
すべてが世界を表現するためのスパイス
ナイトシティには多くの人が生きている。
街を歩くすべての人々には名前がつけられており、所属とセットで確認することができる。
また、彼らの営みは『サイバーパンク2077』に存在する数々のサイドジョブ(サブクエスト)でも垣間見ることができる。
自らサイドジョブを探しに行かなくても少し歩けば次から次へと事件に遭遇することだろう。ナイトシティはそういう街なのだ。
共にメジャーを目指す仲間、違法サイバネで苦しむ男、機械と生身の狭間で苦しむ僧侶、救世主として死を選ぶ男、甥とのコミュニケーション不足に悩む警官、自身のアイデンティティと葛藤するAI……。
ディストピアと化した世界で葛藤し、日々を過ごす彼等の生き様はとても魅力的だ。
主人公V、そしてプレイヤーはそんな数えきれないほどの人々と遭遇していくことになる。
ところで『サイバーパンク2077』には様々なアイテムがあるが、そのほとんどは同じ効果でしかなくフレーバーに過ぎない。これは車や銃なども同様だ。
そこらへんに放置されている車などは奪えるし種類も多いが、自分のものとなる車両は少ないしカスタムもできない。武器もユニークアイテムと通常装備の違いがほぼ分からない。
戦闘全般のこともあるが、少々大雑把だなと感じることが多い。
また『サイバーパンク2077』には圧倒的な量のテキストが存在する。
街のあらゆるところにアーカイブが存在し、最初はすべて読むつもりだったがあまりにも多すぎて今や大量に積むことになっている。
これらのテキストは本作の世界観を知るための手掛かりとなっており、広告のチラシから小説、個人間のチャットログまで様々なものがある。それらを読むことで発生するサイドジョブもあったりする。
データベースも充実しており、元ネタを知らなくても世界の全貌を知る事ができるだろう。
そしてこれらもまた、世界を構成するフレーバーとして存在している。
このゲームに存在する多くの要素は世界を構成し、その世界に生きる人々を際立たせるスパイスだ。
そしてプレイヤーが操る主人公Vもまた、この世界に生きる1人なのだ。
メインストーリー中には数多の選択肢が存在し、その選択で道中は数多の分岐をするが基本的には同じ結末へと向かっていく。
なぜなら主人公はVであって、ユーザーではないからだ。
分岐するエンディングで何を選ぶのか、それはプレイヤーではなく、そこまで生きたVが決めることなのだろう。
総評
実のところ前情報がほぼ無い状態で本作をPC版でやり始めたのであるが、最終的に大いに満足のいく作品だったと言える。
無論、数々のバグに遭遇したが、幸いPC版だったこともありオープンワールドゲームではよくみる範疇のもので収まった。
詰め込みすぎで理解しにくいチュートリアルや、序章が盛り上がりすぎてサイドジョブが多くなり中だるみしやすい中盤、大雑把に思える戦闘やカスタマイズなどなど色々あったが、それらはプレイ時間が増えゲームへの理解が深まるごとに腑に落ちるものとなっていった。
サイバーパンクな世界で生きる彼らを覗きみたい人にはぜひともおすすめの作品だ。